暑中お見舞い申し上げますvv

 

 
俺は、朝の5時にタイマーセットした目覚まし時計が鳴り出す前に飛び起きた。
そのまま大急ぎで着替えると、ゾロの部屋へと窓から侵入を試みる。
窓の鍵は昨夜コッソリ外しておいた。
妙に滑りの良い窓サッシをカラリと開けると、ベットで熟睡中のゾロの姿が見えた。

思いの他、気持ち良さそうに寝ている。
少し無防備なその寝顔を、もうしばらく見ていたいとも思ったが・・・今は時間が無いのだ。
ぐいっと乱暴に肌掛け布団を捲ると、ぐりぐりと肩を揺すってみる。


「海行こう。海」
「・・・ぁ?」


ゾロがぼんやりと目を開けた。
このちょっと寝惚けた具合が、何とも言えず可愛いのだ。
いつも大人な素振りのヤツの、こんな表情が見れる事は喜ばしい事でもある。


「もう行くって決まってんだ。早く用意しろ」
「て、おい!今からか?」


寝惚け眼だったゾロは、俺の台詞に驚いたらしく一気に覚醒したらしい。
ちょっと惜しいなと思ったが、今はとにかく時間が無いのだから、都合は良い。


「そうだ!女の子じゃないんだから、そんなに準備するもんねぇだろ?ほれ、早く!」
「いや、おい・・・ちょっと待て」
「なんだよー・・・まさか“水着が決まらないから行きたくないっ”とか言わねぇよな?」
「誰が言うか、誰が」
「じゃあ、なんだよー」


“まさか俺となんか行きたくない・・とか、言わねぇよな?”

ちょっと胸の中に不安が過ぎる。
ゾロだって、高3にもなって幼馴染みの男と海になんか行っても、楽しく無いのかもしれない。

いや、俺は楽しそうだと思ったから誘ってるワケだけども。


「お前・・・親父には、ちゃんと言ったのか?」
「あん?」
「親父の許しを得たのか・・と訊いてるんだ」
「あぁ、ちゃんと言ったぞ!大丈夫、大丈夫!!」
「なら、良いけどよ・・・」


ゾロはそれだけ訊くと、のそりと起き上がって支度を始めた。
眠たいのか、大きな欠伸をしながら。


「行ってくれんの?」
「行くって、決まってんだろ?」
「ししし。うん、決まってるぞ」
「なら、仕方ねぇだろ」


“そっか・・・気懸かりは、とーちゃんの事だったか”

そうと分かって、ちょっと安心する。
良かった、俺と一緒が嫌なワケではないらしい。


「で?どこまで行くんだ?」
「静かなトコが良いな。どこが良いかな?」
「お前・・・何も考えてないのかよ?」
「うん。ゾロが良いと思うトコへ連れてってくれ」


俺の台詞にゾロは頭を抱えて悩みだした。
どうやら俺がお膳立てしてるのかと期待したらしい・・・無駄な事だな、ありえねぇ。


「だってさ、いっつもゾロが連れてってくれるから・・・俺、自分からどこへ行けば良いとか考えられねぇもん」
「お前、彼女とか出来たらどうする気だ?」
「へ?」


そんな事、考えた事も無かった。
そりゃ・・・普通に女の子にも興味があって、付き合ってくれと言われた事もあるけど。


「まさか・・・ゾロ、彼女いるのか?」
「いや、今はいねぇ」
「むっ・・・“今は”って事は、さっさと彼女作って、俺の事をほっぽってやろうとか思ってんのか?」
「なんでそうなるんだよ」


ゾロは呆れたように俺の頭をポンと叩いた。
これは、小さい時から俺が拗ねた時にする、ゾロの癖だ。
これをされると、最近の俺はとてもムカつく。


「子供扱いすんな」
「事実、子供だろ?」
「違うっ」


むっとして膨らませた頬っぺたを、ゾロは思いきり横に引っ張った。


「すげー伸びる」
「ヤメろ、バカゾロ!」


べしっと手を払い除けると、痛む頬っぺたをすりすりと擦りながらゾロを睨んでやった。
いつまで俺を、寝小便タレのガキだと思ってんだ。
自分だけどんどん大人になってると思うなよ。
俺だって立派な大人なんだぞ・・・いろいろと。


「俺、もう高校生なんだからな!子供じゃねぇよ!」
「そうやってムキになるトコが、子供なんだろ?」
「違うもん!ゾロが悪い!!」
「あ〜そりゃ、悪かったな・・・ほれ、用意は出来たぞ」
「え・・・あ・・・うっ、うん・・・」


最近、俺は変なんだ。
ゾロの、俺を見る優しい目が・・・辛い。
俺の事を、小さいガキとしか見てないような目。
きっと弟か何かのように思ってるんだ・・・あ、ヘタしたら犬扱いかも。

精一杯優しくて、誰よりも大切にしてくれてるのは分かる・・・分かるけど―――



「ルフィーっ!!どこだっ!?行方不明かぁーっ!?」



「げっ、マズい」
「あれ、お前ん家の親父の声じゃねぇか?」
「ゾロ、伏せろ!」


俺の部屋からは、とーちゃんの慌てふためいた声がこだましていた。
早朝からご近所迷惑なとーちゃんだ。


「ちっ・・・とーちゃんめ、目が覚めたか」
「おい、お前・・・ちゃんと言って出て来たんじゃねぇのか?」
「言うワケないじゃん。煩いのに」
「おまっ・・・」
「靴ならちゃんと隠してあるもんね〜・・・ほら、ゾロのも」
「お前、人のベットの下に、何隠してんだ」


ちなみに、こうなる事を予想して、俺とゾロの靴はベットの下に隠しておいた。


「気付かないゾロも相当なもんだろ。あ、とーちゃんがこっちの家に怒鳴り込んできたら、窓から出るぞ」
「お前・・・」
「口では文句言ってても、ちゃんとゾロだって靴履いて準備してるじゃん」
「仕方ねぇだろ・・・」


帰ったらとーちゃんにボコボコにされるんだろうな―――と、ゾロが不憫になったが


「ししし。俺には逆らえないもんなー」
「けっ。で、お前のどこが子供じゃないって?」
「さぁ?子供だから分かんねぇ」
「てめ」


最近の俺の不思議な気持ちは、全部ゾロの所為だから、ゾロが多少ボコられても良い事にする。

俺より先に、大人になっちゃうゾロが悪いんだ。
そうだ、俺は悪くない。
ゾロが全部悪いんだ。


「よし、来た!行くぞ!」
「おう」



そうして―――俺が自分の本当の気持ちに気付いたのは、この後すぐの事。




暑中お見舞い申し上げます。
いつもいつもお世話になりまして、ありがとうございます。
普段のご無沙汰へのお詫びと夏のご挨拶に、こんな小ネタをご用意させていただきました。

※ちなみに、ウチの子ゾロルの2人です(成長しましたが、自覚前です;)
すいません・・・分かり難い設定で。

恩を仇で返すような始末で申し訳ありません。宜しければ、お納めくださいませ。


2005.07.14
「heart to heart」 kinako


*大好きお友達、kinako様が、
 こんなにも夏らしいお話を、ご挨拶とともにお届けくださいましてvv
 さっそく、ちゃっかりと頂いてきてしまいました。
 ルフィのお子様王子様ぶりも相変わらずなら、
 シャンクスお父さんも相変わらずですねぇ。
 こんな可愛いお話をありがとうございますvv
 大切に読ませていただきますね?
 ではではvv


kinako様のサイト『heart to heart』さんはこちら→**


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